Japanische Klassiker mit Furigana
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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme
その祖母から私は、一人きりの女の子というのでかわいがられて、夜なべをしながらよく祖父の話をして下すったので覚えているのですが、その内の一つに次のようなのがあります。
或年の三月頃の晩、祖父は知合の家で碁を打って、夜を更されました。その日は空が薄曇っていて肌寒く、今にも雨がこぼれそうだと思う内に、本降となりましたので、家では若党の和助を迎いに出しましたら、とくに帰られたというのです。夜更にどこへ寄られたろう、行違いになるわけもないし、もうお家へお著かも知れぬと思いながら帰って来ますと、いつか雨が止んで、月が出ています。傘を畳んで、提灯を消して、川の辺まで来ますと、川の水が光ってそこらが明るく、橋の上に何やら立っているものが見えます。立止ってよく見ますと、それが御主人で、傘は拡げたままで足許を見ていられます。
「旦那様、どうなさいました」と、声を懸けても聞えぬらしいので、「旦那様、旦那様」と、なおも呼びながら近寄りました。
「旦那様、雨は止んでおりますのに」といって傘を取りましたら、初めて気が附いて、「あゝ和助か」といわれます。
「そちら側は板が落ちていて、お危のうございます。