Lectura en japonés

Clásicos japoneses con furigana

ja-reading.com

Lee clásicos japoneses en línea con furigana. Filtra por nivel JLPT, toca una palabra para ver el significado y traduce una frase.

はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

Lee 花と龍 (はなとりゅう) de 火野 葦平 (ひのあしへい) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.

N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 410.131 caracteres · 824 pantallas

Aozora Bunko

そのときの菊と、今、手にしている花と、においが寸分ちがわない。

「あなた」

と、また、聞えた。

金五郎は、うすく、眼を開いた。意識が朦朧としていて、夢と現実との境がはっきりしなかったけれども、霞をかけたような視野の中に、幻のように、妻の顔を認めることが出来た。

「マン」

反射的に、その声が出た。しかし、それは、呟きのように低く、力のない声で、かすかに、唇が動いた程度にすぎなかった。マン一人に聞きとれただけだ。

そして、マンがはげしく号泣する声を聞きながら、金五郎は人事不省におち入り、またも、深い昏睡の中に、意識をうしなって行った。そこには、もはや、夢もなく、死の暗黒があるばかりだった。

病室には、マンの外、子分連中と四五人の見舞客がいた。

嵐の夜、金五郎が奇禍に遭って以来、病室には客が殺到した。しかし、「玉井金五郎が殺された」――それは決定的な噂になって、街にひろがっていたので、どの客の顔も沈痛だった。誰も見舞ではなく、お悔みに来るのである。

常に金五郎の後楯になっていた大庭春吉の歎きは大きかった。

「おれが殺したようなもんじゃ」

そういって、男泣きに泣いた。