Lectura en japonés

Clásicos japoneses con furigana

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いきふどう

橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇

橘 外男

Lee 橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇 (いきふどう) de 橘 外男 (たちばなそとお) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.

N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 198.400 caracteres · 387 pantallas

Aozora Bunko

そしてその瞬間だけは、宗教心のない私にも死んだ妻が憔悴ながらに優しいあの顔を綻ばせてさも楽しげに身近く引き添うていてくれるような気がしてならなかった。

もちろん妻は東京に葬ってあったし、別段こんな淋しい山寺に何の関係もあったわけではなかったから、なぜここへ来ればこんな気持がしていたのか私にもその理由はわからなかった。が、わからぬままに座敷で寝転びながら書物を読んでいる時なぞでも、ふとした拍子にこの断崖を想い出してくるとまるで妻がここから手招きでもしているかのように胸一杯に楽しさが唆り立てられる気持がしてつい道が遠いことも打ち忘れてまたフラフラと出掛けて来るのが常であった。

さてそうした頃のある日であった。その日も私はふとこの断崖の外れへ来て、何を考えるともなく、とりとめもない思いに沈みながら、やがて小半日くらいも過してしまった頃であろうか。ふと気がついて見れば陽はもう海の彼方に沈もうとして残光は金色の波を眩しく海上に漂わせていた。そしてこの断崖の上にうっすらと影ろって物侘しい静かな夕暮れを色づけ初めていた。また今日も暮れてしまうのかと私が起ち上り掛けた時、思わずギクリとして聞き耳を立てた。