Lectura en japonés

Clásicos japoneses con furigana

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ひのとびら

火の扉

岸田 国士

Lee 火の扉 (ひのとびら) de 岸田 国士 (きしだくにお) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.

N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 129.467 caracteres · 257 pantallas

Aozora Bunko

六

彼女は、その話を聞くとすぐに、モトムのおやつにと思つてとつておいた手製のパンをもつて現場へ駆けつけてみた。すると、女をまじえた五六人が、たゞそれを取囲んでみているだけで、だれも、どうもしようとしないのである。少年は、彼女の差出すパンを、もう受けとることすらできなかつた。

こういう味気ない瞬間が、ほとんど刻々に彼女をおそうようになつたある日、思いがけなく、北原ミユキがひよつこり訪ねて来た。

応接間はあいにくふさがつているので、二階の居間兼寝室へ通す。

向いあつてすわると、北原ミユキはもう呼吸をはずませて、言つた――

「わたし、もう、どうしていゝかわからなくなつて、お伺いしましたの」

康子は、じつと北原ミユキの眼をみながら、

「おや、おや、もうなにか事件がおこつたの?」

自分を強いて落ちつかせるために、彼女は軽く応じた。

六

「奥さまにはほんとに申しあげにくいことなんです。ですから、どんなに迷つたかしれませんわ」

北原ミユキは、うつむき加減になり、うなじをかすかにふるわせながら、切りだした。

「お目にかゝつたらまつ先に、お礼を申しあげなけりやならないんですけれど、それは、この話を聞いていたゞいてからにしますわ。