Clásicos japoneses con furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lee 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) de 岡本 綺堂 (おかもときどう) en japonés con furigana. JLPT N2. Toca una palabra para ver el significado.
N2 · avanzado · kanji y kana modernos · 183.656 caracteres · 363 pantallas
その後、古書の翻刻も続々行なわれ、わたしの懐ろにも幾分の余裕が出来て、買いたい本はどうにか買えるようにもなったが、その昔の読書の苦しみは身にしみて覚えている。わたしはその経験があるだけに、書物の装幀などには余り重きを置かない。なんでも廉く買えて、それを自分の手もとに置くことの出来るのを第一義としている。
前にもいう通り、わたしが矢立と罫紙を持って、風雨を冒して郊外の蔵書家を訪問して、一生懸命に筆写して来た書物が、今日では何々文庫として二十銭か三十銭で容易に手に入れることが出来るのは、読書子に取って実に幸福であると云わなければならない。廉価版が善いの悪いのと贅沢をいうべきでは無い。
博文館以外にも、その当時に古書を翻刻してくれた人々は、その目的が那辺にあろうとも、われわれに取ってはみな忘れ難い恩人であった。その人々も今は大かた此の世にいないであろう。その書物も次第に堙滅して、今は古本屋の店頭にもその形をとどめなくなった。私もその翻刻書類を随分蒐集していたが、それもみな震災の犠牲になってしまったのは残り惜しい。
わたしは比較的に好運の人間で、これまでに余りひどい目に逢ったことも無かったが、震災のために、多年の日記、雑記帳、原稿のたぐいから蔵書一切を焼き失ったのは、一生一度の償い難き災禍であった。