Classiques japonais avec furigana
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おせん
おせん
邦枝 完二
Lisez おせん de 邦枝 完二 (くにえだかんじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 74 074 caractères · 148 écrans
当時江戸では一番だという、その笠森の水茶屋の娘が、どれ程勝れた縹緻にもせよ、浪速は天満天神の、橋の袂に程近い薬種問屋「小西」の娘と生まれて、何ひとつ不自由も知らず、我まま勝手に育てられて来たおこのは、たとい役者の女房には不向にしろ、品なら縹緻なら、人には引けは取らないとの、固い己惚があったのであろう。仮令江戸に幾千の女がいようともうちの太夫にばかりは、足の先へも触らせることではないと、三年前に婚礼早々大阪を発って来た時から、肚の底には、梃でも動かぬ強い心がきまっていた。
この秋の狂言に、良人が選んだ「おせん」の芝居を、重助さんが書きおろすという。もとよりそれには、連れ添う身の異存のあろうはずもなく、本読みも済んで、愈稽古にかかった四五日は、寝る間をつめても、次の間に控えて、茶よ菓子よと、女房の勤めに、さらさら手落はなく過ぎたのであったが、さて稽古が積んで、おのれの工夫が真剣になる時分から、ふと眼についたのは、良人の居間に大事にたたんで置いてある、もみじを散らした一本の女帯だった。
買った衣装というのなら、誰に見しょうとて、別に邪間になるまいと思われる、その帯だけに殊更に、夜寝る時まで枕許へ引き付ての愛着は、並大抵のことではないと、疑うともなく疑ったのが、事の始まりというのであろうか。