Classiques japonais avec furigana
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しょうせつ ほととぎす
小説 不如帰
徳冨 蘆花
Lisez 小説 不如帰 (しょうせつ ほととぎす) de 徳冨 蘆花 (とくとみろか) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 742 caractères · 256 écrans
時はうつりぬ。今はかの当時、何を恥じ、何を憤り、何を悲しみ、何を恨むともわかち難き感情の、腸に沸りし時は過ぎて、一片の痛恨深く痼して、人知らずわが心を蝕うのみ。母はかの後二たび書を寄せ物を寄せてつつがなく帰り来たるの日を待つと言い送りぬ。武男もさすがに老いたる母の膝下さびしかるべきを思いては、かの時の過言を謝して、その健康を祈る由書き送りぬ。されど解きても融け難き一塊の恨みは深く深く胸底に残りて、彼が夜々ハンモックの上に、北洋艦隊の殲滅とわが討死の夢に伴なうものは、雪白の肩掛をまとえる病めるある人の面影なりき。
消息絶えて、月は三たび移りぬ。彼女なお生きてありや、なしや。生きてあらん。わが忘るる日なきがごとく、彼も思わざるの日はなからん。共に生き共に死なんと誓いしならずや。
武男はかく思いぬ。さらに最後に相見し時を思いぬ。五日の月松にかかりて、朧々としたる逗子の夕べ、われを送りて門に立ち出で、「早く帰ってちょうだい」と呼びし人はいずこぞ。思い入りてながむれば、白き肩掛をまとえる姿の、今しも月光のうちより歩み出で来たらん心地すなり。
明日にもあれ、首尾よく敵の艦隊に会して、この身砲弾の的にもならば、すべて世は一場の夢と過ぎなん、と武男は思いぬ。