Classiques japonais avec furigana
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ひがんすぎまで
彼岸過迄
Lisez 彼岸過迄 (ひがんすぎまで) de Natsume Sōseki (夏目 漱石) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 195 333 caractères · 385 écrans
八
八
真鍮の掛札に何々殿と書いた並等の竈を、薄気味悪く左右に見て裏へ抜けると、広い空地の隅に松薪が山のように積んであった。周囲には綺麗な孟宗藪が蒼々と茂っていた。その下が麦畠で、麦畠の向うがまた岡続きに高く蜿蜒しているので、北側の眺めはことに晴々しかった。須永はこの空地の端に立って広い眼界をぼんやり見渡していた。
「市さん、もう用意ができたんですって」
須永は千代子の声を聞いて黙ったまま帰って来たが、「あの竹藪は大変みごとだね。何だか死人の膏が肥料になって、ああ生々延びるような気がするじゃないか。ここにできる筍はきっと旨いよ」と云った。千代子は「おお厭だ」と云い放にして、さっさとまた並等を通り抜けた。宵子の竈は上等の一号というので、扉の上に紫の幕が張ってあった。その前に昨日の花環が少し凋みかけて、台の上に静かに横たわっていた。それが昨夜宵子の肉を焼いた熱気の記念のように思われるので、千代子は急に息苦しくなった。御坊が三人出て来た。そのうちの一番年を取ったのが「御封印を……」と云うので、須永は「よし、構わないから開けてくれ」と頼んだ。畏まった御坊は自分の手で封印を切って、かちゃりと響く音をさせながら錠を抜いた。