Classiques japonais avec furigana
ja-reading.com
Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.
わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lisez 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 193 050 caractères · 383 écrans
内輪ではそういう旧藩士の暮しのしきたりみたいな風習を、ちんまり崩さずにもっている古風の面もありながら、世間へは貧乏をひどく恥としていた。政治、社会制度、といった方へ貧困のもとを糺す風潮はなかったといっていい。「貧乏はその者の心がら」と、ひと口にすぐ片づけられてしまう。貧乏人は即、人間的劣等かのような差別視がつよかった。だから、落ちぶれる――をひどく恐れた。落ち目をつくろい、見得を張ることにもなる。
ぼくの両親などは、典型的なその方の見得張りであったのか、剛愎らしい父も、道具屋にはそんな大真面目で小心を見せていたし、母もまた母であった。たいしたお嬢さん育ちでもなし、世間知らずといっても、深窓の人でもないくせに、家が零落し初めてからも、今日では、理解のつかないような事をやっていた。
いよいよ家計も切りつめなければ、そして、踊のお師匠さんも断り、女中もみな帰して、これからは勝手元も自分一人でやってゆく、と遅まきながら母も考えてきたらしい。それは母にしては大へんな奮発だった。ところが、母はまもなく近所の人から、物珍しげな笑い者にされていた。というのは、母が外へ出る姿を見ると、長年の習慣から、斜向いのカゴ虎の若い衆が、黙っていても、すぐ足許へ、人力車の梶棒をもって来て下ろすのだった。