Classiques japonais avec furigana
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りょしゅう
旅愁
横光 利一
Lisez 旅愁 (りょしゅう) de 横光 利一 (よこみつりいち) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 576 941 caractères · 1138 écrans
そのうち由吉が巨きな体でゆったりと階段の口へ立ち顕れた。不思議とぱっと光りを人中に放つ明るさを泛べた微笑で、由吉は侯爵の方へ歩んで来たが、二人は顔を見合せたまま挨拶もせず、いきなり冗談を軽く一口いってから写真を眺めた。彼だけはまだ外套も脱がず悠悠と煙草に火を点けると、首を緊めすぎた襟を弛める風に頭を廻して矢代に一寸笑った。見ていると、侯爵と由吉は実に呼吸の合った粋人同志だった。
「そうそう、今イスタンブールを廻っているよ。」とか、「グラスから手紙が来た。」とか、こういう会話のはしばしが、塩野を包んで一団の中から矢代の方へ聞えて来た。多分、外務省関係の知人たちと見えたが、またそれとは別の一団もあって、彼の血縁関係の人人らしく、この方は控え目な静粛さで隅の方に寄り塊ったままだった。
塩野の両親は早く亡くなって今はいなかった。この孤児の彼を叔父が育て外国へまで遣っていたのだが、彼の叔父は一度国務大臣にもなったある有名な実業家で、今もなお塩野はこの家に起居していたから、恐らく親戚たちの一団もその叔父一家を中心にした集りにちがいなかった。実際この一堂の中を見廻していると人に愛せられる塩野の性質の自然に醸し出すなごやかさが溢れていた。