Classiques japonais avec furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lisez 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 112 073 caractères · 223 écrans
おみやは彼に酌をし、自分も盃を取って、新八に酌をさせた。
「わけがあるのよ」とおみやは盃に口を当てながら、なにか考えるような眼つきで云った、「そうよ、なにかわけがあるんだわ、兄はびっくりするほど知恵のまわるところがあるんだから」
新八は黙って酒を啜り、咽せて咳こんだ。おみやは盃をすっとあけて云った。
「それで、その人たちみんな道場へ帰ったのね」
「石川さんは帰りません」
「腕を折られた人ね」
「そうです、いつかこの恨みは必ずはらしてみせると云って、一人だけ西福寺からどこかへいってしまったそうです」
「よせばいいのに、ばかな人だわね」
「なにがばかですか」と新八が訊いた。
その調子が強かったので、おみやは訝しそうに新八を見た。この女は愚かだ、と新八は思った。
「だって恨みをはらすなんて」とおみやが云った、「五躰が満足でいてさえかなわないのに、片輪になってから、それも右の腕を折られてしまってからなにができるの」
「そうですね」
「へたなことをすれば、こんどは命までなくしてしまうわ、みんな兄の強いことを知らないのよ」
「そうですね」と新八は云った。
そう云いながら、彼はふと、石川さんはきっとやるぞ、と思った。