Classiques japonais avec furigana
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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
Lisez 樅ノ木は残った (もみノきはのこった) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 148 519 caractères · 296 écrans
それで兄はほんとうに強いんだなとわかってから、この兄のためなら苦労をしてもいいわって思ったのよ」
新八は聞いていなかった。
彼はおみやが渡辺九郎左衛門の妻でなく、側女だということを知っていた。兄の使いで五度ほど渡辺を訪ねたことがあるし、茶菓や、食事を馳走されたこともあるが、そのときのようすでは、彼女は召使いのような印象であった。
「あたしが渡辺の旦那のところへあがったのも、兄にいい出世のくちがみつかるまでと思ったからよ」とおみやは云った。それからふと話しを変えた。それ以上は話してはいけない、ということに気づいたらしい。おみやは取って付けたように「ごめんあそばせ」と云い、隣りの六帖で着替えをしながら云った。
「あなた、どこでお逃げになったの」
「片倉という処です」と新八は云った、「常陸の片倉という処で、護送者の隙をみて逃げたんです」
「そこは遠いの」
「江戸から三日かかりました、江戸を出たのが七月二十九日ですから」
「今日はもう八月七日よ」
「まわり道をしましたから」と新八が云った、「もとの道では捉まると思ったので、片倉の近くに巴川という川があるんですが、その川にそって下って、霞ヶ浦という処へ出て、そこは湖なんですが、船で江戸崎という処へ渡って、それから」