Classiques japonais avec furigana
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おちむしゃにっき
落武者日記
山本 周五郎
Lisez 落武者日記 (おちむしゃにっき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 11 460 caractères · 23 écrans
――小早川どのが裏切った。
――金吾中納言どのが裏切った。
松尾山に陣を張っていた小早川秀秋の軍勢が、そのとき、騎馬隊を先頭に、味方の大谷刑部吉継の陣の側面へ、なだれをうって殺到して来たのだ。
憎むべし! 金吾秀秋が裏切った、まさに勝利を掴もうとした時に、その時に。小早川秀秋が敵へ裏切ったのだ!
「ああ、……」
自分の口から出た呪咀の呻きで、祐八郎ははっと仮睡から覚めた。
――秀秋の犬め、死んでも忘れんぞ!
臨終に叫んだ義兵衛の声が、なまなましく耳の奥から甦ってきた。……いや! 義兵衛ひとりの声ではない。石田三成の全軍の将士、生霊と亡魂とが声を合せて叫ぶ呪咀の叫びだ。
あたりは死んだように静かだった。
仰むけに倒れている祐八郎の眼は、枝をさし交わしている竹藪の上に、高く高く、星がまたたいているのを見た。
「ああ星が美しいな」
祐八郎はそっと呟いた。
「御主君はいま、どこでこの星を見ておいでなさるだろうか」
故太閤の恩に酬ゆるため、義軍を起して一敗地にまみれ、味方はちりぢりばらばら、主将三成も身をもって戦場を落ちて行った。
――主君に会いたい、主君の先途を見届けたい、そして佐和山城に入ってもうひと合戦。