Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

おちむしゃにっき

落武者日記

山本 周五郎

Lisez 落武者日記 (おちむしゃにっき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 11 460 caractères · 23 écrans

Aozora Bunko

一の二

……しかし、瞼が落ちるより早く、鮮かな幻想が彼の脳裡に甦ってきた。

それは今から三日まえ、すなわち、慶長五年九月十五日、関ヶ原に展開された合戦の、ある忘るべからざる一瞬の記憶であった。

一の二

眼もあけられぬほどもうもうと、渦巻きあがる土けぶりだった。夜明け前からはじまった合戦は、午の刻にいたって、今その最高潮に達していた。

押し寄せ、揉み返す人馬の叫喚が、撃ちあう太刀、槍、あらゆる武具の響音とともに、すさまじく山野を震撼していた。敵味方の旗さしものが、まるで芒の穂波のように、土けぶりで茶色に暈かされた戦場を、縦横にいりみだれ、押し返し、波をうちつつ、しだいに東へ東へと移動していた。

――味方の勝ち目だ。

――見ろ、徳川家康の本陣が崩れだしたぞ。

――最後のひと押しだ。

みんなそう信じた。事実、混沌としていた乱軍のかたちが、今やもっとも微妙な勝敗の分水嶺に登りつめ、石田軍はまさに勝利の一瞬をわがものにしたと見えた。

じつにそのときであった。

味方の右翼から、眼に見えぬ一種の波動が、電撃のように全軍の上に脈搏ってきたと思うと、もっとも怖れていた叫びが人々の上で炸裂したのである。