Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
「不覚な訳じゃ!」重喜は、それを自分に向っていった。緻密にかがっておいた秘密の目を、何者かに乱されている不快がこみあげていた。
「では……」と、しばらく重苦しい考えに落ちていたが、何か一策を案じたらしく、気をかえて、
「番士!」
「はッ」
「森啓之助を呼べ! すぐに。そして別の広間へは、明々と燭の数をつらねて、この下屋敷の女中どもを一人残らず居並べておけ! 酒肴の用意手早くいたせよ! よいか! 明日は卍丸の船出ゆえに、別れの宴を酌むのである」
晴々としていいつけた。
白々とした粉黛の顔に、パッと桃色の灯をうけながら、十四、五人の侍女たち、皆一つずつの燭台をささげ、闇を払って長廊下から百畳敷の菊の間へ流れこんだ。
まもなく阿波守重喜、茶亭からここへ席を移し、京浪人と称する三卿を初め、食客の竹屋三位卿もついてくる。
明日は船出の別れの宴、ここに大名らしい大まかな歓楽の夜となって――。
「方々、心ゆくまで酔いましょうぞ」
まず、阿波守から盃を上げてこういう。
「長夜の宴!」右少将が即興に答えた。
「されば、名残の宴でもある。藩祖が阿波の国を賜うて以来、上府帰国の船中では、太守を初め水夫楫主、一滴の酒をねぶることもゆるさぬ家憲でござりますゆえ」