Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
「まア……」
牡丹が花を開き切ったように、お綱の顔が明るく笑った。
「いいよ、いいよ。お千絵様とかいうお女、きっと、私が周馬をうまく欺して、誘いだして上げるから」
「じゃ、吉報は妻恋へ」
「アア、四、五日うちに聞きにおいで」
「ありがとう!」
と万吉は、八ツ手の葉蔭から、もう一度お綱へ頭を下げて、前の穴からズルズルと塀の外へ這いだした。ヒューッと寒い空風が目に砂を入れて行った。
塀の穴から出てみると、もう夕暮に近そうだ。
渡世道具のてっぽう笊。チャンとそこに待っていた。
笊もし人間なれば、怒っている。
「エエ寒い」
すぐ水ッ洟を啜ったのは、目明し万吉、屑屋に早変りの心支度が、自然にそうさせたものなのだ。膝や袂の土を払って、鉄砲笊を斜めにかつぎ、
「屑ウーイ」
濁み声を淋しくひいて、二足三足あるきだしたのである。すると――すぐ。
万吉は水でも足へ掛けられたように、ハッと驚いて道を避けた。
墨渋を塗った黒塀へ、一人の男、守宮のように貼りついて、じっと、横目でこっちを睨んでいる。
向う側を廻りながら、万吉もグイと横目で睨んだ……。
黒縮緬の頭巾、鉄漿染の羽織。
黒い塀の所へ黒い人間が、ジッと立っていたのだから、ウッカリ気がつかなかったのも当然で、茶柄の大小、銀鐺、骨太だがスラリとして、鮫緒の雪踏をはいている背恰好。