Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
ズル――とそれが脱げそうになる。
と、孫兵衛は、あたかも、忘れていた神経を、針の先で、突かれたように、ハッと、両手で頭巾を抑えた。
その間髪に、お綱はさっ――と立ち上がった。
「うぬ!」
と追いかかる孫兵衛、浅ましい獣心の沸り狂うままに、真っ暗な空屋敷の間ごと間ごとを追い廻して、今は、眼にお綱よりほかの何ものもない。
お綱はまた必死に逃げ廻った。
けれど、運の悪いことには、このダダッ広い屋敷は、昼でもすべての戸が閉めきッてあったため、外へは一歩も逃げだせないのだ。ただ、お綱のかすかな強味は、万吉に頼まれて、お千絵様の居所を探した時、念のため、一間のこらず歩いてあったし、押入れ納戸の勝手まで覗いているので、茶の間から客間、中廊下から奥の間と、ほどけた帯を巻くひまもなく、尾長鳥が尾を曳くように駈け廻った。
だが、かかる場合、逃げれば逃げるほど、お十夜の執念は増すばかり、お綱を傷ついた色鳥と見れば、彼は情炎の猟犬に等しい。
今しも、だんだんに追いつめてきた奥廊下。
鉤の手に曲るところを、そのままそれればまたもとの茶の間あたりへ入るのだが、そこへ行っては、いよいよ袋詰めにされてしまう。