Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
そら寝の駈引
「それなら、あちらの部屋に鏡台もございますから、ごゆるりお使いなさいまし」
「じゃ、ちょっとそこを借りますよ」
立って奥へ入ろうとすると、ちょうど茶店の前をおびただしい数の侍が、いずれも野袴わらじがけで、シトシトとわき目もふらずに通り過ぎてゆくのを見た。
「おや?」
お綱は、ペタと壁のかげに身を隠して、
「あの先達になってゆく男は、たしかこの間川長の座敷で隣合った阿波侍……たいそうぎょうさんな身支度で、一体どこへゆくのかしら?」
と横目づかいにジイと見送っていると、あの、天堂一角とおぼしき眼が、鋭くこっちへふり向いたので、お綱はスッと奥の部屋へ隠れてしまった。
そして、立て膝の鏡立てに、両手を髪へ廻したかと思うと、見るまに笄をぬき簪をとり、鹿の子結びのお七髷を惜しげもなくこわしてしまう。
そら寝の駈引
あれから一刻ばかりたって、お綱は、すきや縮に小柳の引っかけ帯、髪もぞんざい結びに巻きなおし、まるで別人のようになって、
「アア、せいせいした……」
と「走り井」と書いた団扇を片手に、ぶらぶら大津の方へあるいていた。
ちょうど、どこかの粋なお内儀さん――というかっこう、誰の目にも旅をしている者とはうけ取れまいと思えるが、さすが、街道かせぎの駕かきは目が高かった。