Classiques japonais avec furigana
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なにがわたしをこうさせたか
何が私をこうさせたか
金子 ふみ子
Lisez 何が私をこうさせたか (なにがわたしをこうさせたか) de 金子 ふみ子 (かねこふみこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 191 571 caractères · 383 écrans
濡れた電信柱に凭りかかって私は、前の大時計の針を眺めながら、もうどうせ売れはしない、早く帰りたいと思った。が、その夜に限って私には、時の歩みは遅々として進まないのであった。
思い出したように私は「ゆうかーん」と、だるそうな声で往来の人々に呼びかけた。が、やはり、誰も買ってくれる者がなかった。忘れた頃に一人二人立ち寄って一、二枚買って行くが、それも必要というよりはむしろ私の哀れな姿に同情して買って行く人々らしく見えた。
時が経つに従って人足はますます減った。張合いのない気力は体の疲れを一層濃厚にした。
もう見込みがない、いつまで立っていても仕様がない。帰ろう、と私は決心した。で、少し早いがそこを引きあげた。
やがて私は家の近くにまで来ていた。大通りを曲って路地に這入り、家の横手のどぶ板を踏んだ時、その足音をききつけて、二階から主人が叫んだ。
「誰だね、今頃帰って来たのは?」
「私です、金子です」と私は顔をあげて二階の方を見上げた。
二階には誰か客が来ているらしく、主人と客とはビール瓶を中に向い合って座っていた。
「金子君か、まだ早いよ、十一時にもなってやしないじゃないか」