Classiques japonais avec furigana
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よるのちょう
夜の蝶
山本 周五郎
Lisez 夜の蝶 (よるのちょう) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 345 caractères · 21 écrans
それから与平に向って囁くように訊いた。
「子供があるんだね」
「とんでもねえ、まだ生娘ですよ」と与平が云った。「あっしは又聞きで詳しいことは知らねえが、十五年ばかりまえ、京伝の店にお幸さん――というのは、あの娘さんの名前ですが、お幸さんの婿になる筈の手代がいましてね。それがその祝言をあげようてえときになって、店の金を千両とか二千両とか持ってずらかっちまったんで」
「それあ違うよ与平さん」六兵衛が云った。云いながら自分の燗徳利と盃を持って、こっちへ来て、旅装の客の脇へ腰をおろし、「それあ、おめえの聞き違えだ」と与平に向って云った。「その手代――高次てえ名前だったが、その手代のずらかったのは、祝言のめえじゃあねえ、旦那の亡くなったときのこった」
「六兵衛さんは詳しいんだな」
「詳しいってわけじゃあねえんだ。おれも、そのちょっとめえから佐渡屋の飯を食うようになったばかりで、古くからのいきさつは知らねえんだが、その騒ぎのときのことはまだ覚えてる。あれあ京伝の旦那の亡くなったすぐあとのこったよ」
飯台のほうでは、女が静かに子守り唄をうたいだした。旅装の客は口のところまで盃を持ってゆき、そのまま飲みもせずに(口の前で盃を支えたまま)、ふと眼をつむった。