Classiques japonais avec furigana
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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
Lisez 小出楢重随筆集 (ならしげざっぴつ) de 小出 楢重 (こいでならしげ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 334 351 caractères · 657 écrans
いなくなっているのに別段不思議はないわけだが、そのいなくなったあとには不思議な空洞が残されていたのだ。すると心の底に棲む虫が急に騒ぎ始めたのである。
兄は立ち上がって庫裡を覗いたが真暗だった。妻に訊いても知らぬといった。そこで彼女の下駄を調べてみたらそれがなくなっていた。兄はともかく提灯を携げて飛び出し、夢中で街道を走ってみた。
十町程行くと鉄道の踏切がある。
その踏切へ差しかかる四、五間手前のところにセルロイドの櫛が一つ落ちていた。それから黒い血らしいものと砂にまみれた髪の毛の束が乱れていた。
兄はこの静物を見ると同時に坐ってしまった。腰が抜けるということはほんまにあることだと彼は後に話していた。
これではいけないと思って無理から立ち上がり慄えながら線路を探し廻ったが、不思議にも肝腎の死体がなかった。
ちょうどそこへ村人が通り合わせて、彼はAを今駅の構内へ運んだから、早く行ってやれ、まだ虫の息はあるようだからと知らせてくれた。
H駅のうす暗い八角形のランプはいつも蜘蛛の巣で取り巻かれている。その下のうす暗い片隅の蓆の上に彼女は寝かされていた、兄が行った時、眼を開いて何かいうのである。