Classiques japonais avec furigana
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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
Lisez 小出楢重随筆集 (ならしげざっぴつ) de 小出 楢重 (こいでならしげ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 334 351 caractères · 657 écrans
きに非ずとさえ見做される事が、日本では殊の外あったようである。ところで一時代過ぎてその酒めしの看板と田舎道が、とみに人気を失いかかると、もう薄情にも、誰れがあんな阿呆らしいものを汽車賃まで使って描きに行ったのか、その心根がわからないではないかという事になったりする。勿論、現代では何がな横文字の看板ばかりあさって歩く風潮もあるにはあるが。
私が白馬会へ最初通い出した時分は何がな、風景でも、何によらず、物体の影という影は光線の具合によって、紫色に見えるものだよ君、眼をほそめて、自然を観察して見給え、そら、紫でしょうがな、と私はしばしば注意された事であった。そうかなと思って私はつくづく眺めて見たが、遠方はなるほど多少紫っぽいが、人間の髪の毛や、近くの樹木の幹の影などは皆が、素直に紫に見る如く紫では決してなかった。私はこれでは画家としての眼を自分は備えていないのかと思ったりしてふさぎ込み、下宿へ帰って一晩中考えて見た事さえあったが、しかし、翌日、谷中の墓地を通って見ても、木の幹の影はやはり紫では決してなかった。今の時代では誰れしもが、影は紫であるなど考えるものがなくなったからいいが、全く私は、その頃情けなく思った事である。