Classiques japonais avec furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lisez 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 193 050 caractères · 383 écrans
船具部へかかってくる。
その船具部には、百人以上の仲間がいた。一部から六部まで分れており、一組十七、八名ずつ配されて一チームになっている。能率を競わせる仕組みであろう、一組一組には組長、小頭がいて、職工長室の指令をうけ取って来ると、「今日は、何号ドックの入渠船のペンキ塗り」とか「午から誰と誰はランチに乗って沖の外国船へ入渠用意に行け」とか伝令する。労務時間は、朝七時から五時半までで、ぼくの日給は、四十五銭であった。夜業一時間二割増し、深夜業や徹夜はもっといい率に割増しがつく、入りたての一頃は、誰からもすぐ「幾ツだい?」とよく怪しまれた。人いちばい小さいぼくだったせいもあろうが、誰も二十歳とは受けとってはくれない。船具部中を見廻しても、ぼくみたいな小さいのは、ぼくだけだった。
ドン(午砲)という言葉があった。「ドンだよ」といえば正午を意味し、「ドンにしようぜ」と云えば、昼飯にしようぜということになる。
横浜の空にはその頃、もひとつ朝午夕の三度ブーが鳴った。サイレンとは云わなかった。「船渠会社のブーが聞える」といえば、朝は七時、夕は五時半と極まっていて、全市の時計代りになっていた。