Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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ただなおきょうぎょうじょうき

忠直卿行状記

菊池 寛

Lisez 忠直卿行状記 (ただなおきょうぎょうじょうき) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 23 602 caractères · 47 écrans

Aozora Bunko

「それ! 真槍の用意いたせ」と、忠直卿が命ずると、かねて用意してあったのだろう、小姓が二人、各々一本の大身の槍を重たそうにもたげて、忠直卿主従の間に持ち出した。

「それ! 左太夫用意せい!」といいながら、忠直卿は手馴れた三間柄の長槍の穂鞘を払った。

槍鍛冶の名手、備後貞包の鍛えた七寸に近い鋒先から迸る殺気が、一座の人々の心を冷たく圧した。

今まで、じっとして主君忠直の振舞いを看過していた国老の本多土佐は、主君が鋒先を払われるや否や突如として忠直卿の御前に出でた。

「殿! お気が狂わせられたか。大切の御身をもって、みだりに剣戟を弄ばれ家臣の者を傷つけられては、公儀に聞えても容易ならぬ儀でござる。平にお止り下されい」と、老眼をしばたたきながら、必死になって申し上げた。

「爺か! 止めだて無用じゃ。今日の真槍の仕合は、忠直六十七万石の家国に易えてもと、思い立った一儀じゃ。止めだて一切無用じゃ」と、忠直卿は凜然といい放った。そこには秋霜のごとく犯しがたき威厳が伴った。こうした場合、これまでも忠直卿の意志は絶対のものであった。土佐は口を緘んだまま、悄然として引き退いた。