Classiques japonais avec furigana
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ただなおきょうぎょうじょうき
忠直卿行状記
菊池 寛
Lisez 忠直卿行状記 (ただなおきょうぎょうじょうき) de 菊池 寛 (きくちかん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 23 602 caractères · 47 écrans
その右の手には、早くも匕首が光っていた。が、与四郎は、軽捷な忠直卿にわけもなく利腕を取られて、そこに捻じ伏せられてしまった。近習の一人は、気を利かせたつもりで、小姓の持っていた忠直卿の佩刀を彼に手渡そうとした。が、忠直卿はかえってその男を斥けた。
「与四郎! さすがに其方は武士じゃのう」と、いいながら、忠直卿は取っていた与四郎の手を放した。与四郎は、匕首を持ったまま、面も揚げず、そこに平伏した。
「其方の女房も、さすがに命を召さるるとも、余が言葉に従わぬと申しおった。余の家来には珍しい者どもじゃ」と、いったまま、忠直卿は心から快げに哄笑した。
忠直卿は、与四郎の反抗によって、二重の歓びを得ていた。一つは、一個の人間として、他人から恨まれ殺されんとすることによって、初めて自分も人間の世界へ一歩踏み入れることが許されたように覚えたことである。もう一つは、家中において、打物取っては俊捷第一の噂ある与四郎が必死の匕首を、物の見事に取り押えたことであった。この勝負に、嘘や佯があろうとは思えなかった。彼は、久し振りに勝利の快感を、なんの疑惑なしに、楽しむことができた。