Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

くろかべ

文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁

泉 鏡花

Lisez 文豪怪談傑作選 泉鏡花集 黒壁 (くろかべ) de 泉 鏡花 (いずみきょうか) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 72 070 caractères · 143 écrans

Aozora Bunko

音を潜めたように、跫音を立てずに山際についてそのまま行過ぎるのかと思うと、ひったりと寄って、運転手の肩越しに糸七の横顔へ提灯を突出した。

蛙かと思う目が二つ、くるッと映った。

すぐに、もとへ返して、今度は向う廻りに、娘分の顔へ提灯を上げた。

その時である、菩薩の名を唱えたのは――

「南無観世音。」

続けて又唱えた。

「南無観世音……」

この耳近な声に、娘分は湯上りに化粧した頸を垂れ、前髪でうつむいた、その白粉の香の雨に伝う白い顔に、一条ほんのりと紅を薄くさしたのは、近々と蓑の手の寄せた提灯の――模様かと見た――朱の映ったのである、……あとで聞くと、朱で、かなだ、「こんばんは」と記したのであった。

このまざまざと口を聞くが、声のない挨拶には誰も口へ出して会釈を返す機を得なかったが、菩薩の称号に、その娘分に続いて、糸七の女房も掌を合わせた。

「南無観世音……」

また繰返しながら、蓑の下の提灯は、洞の口へ吸わるる如く、奥在所の口を見るうちに深く入って、肩から裙へすぼまって、消えた。

「まるで嘲笑うようでしたな、帰りがけに、またあの梟めが、まだ鳴いています――爺い……老爺らしゅうございましたぜ。