Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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はんぎゃく

日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)

矢田 津世子

Lisez 日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三) (はんぎゃく) de 矢田 津世子 (やだつせこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 16 512 caractères · 34 écrans

Aozora Bunko

早くですぞ。早くな……」

老医師は、臆病な鼠のように性急に逃げていった。

大きな金槌で、ガアンと頭のてっぺんをどやされた形だった。

胸の中を真紅な焔が燃えた。眼の前が一様に白っぽい布で覆われた。何も分らない。何も彼もだ……

だが、やがて一条の冷水が彼女の昂奮の中を下っていった。

「兼、兼坊、お前は一体何をやったんだい。おっ母アにみんな云ってみな。な、云ってみな……」

白眼を出した儘、娘は微笑した。

「な、兼、云ってみな。どうして……」

「……アーメンだい。アーメン……」

不意にひどい苦悶の中から、娘は人差指を振りあげて隣室を指した。泣き笑いがその後に続いた。

「……先生かい。兼、アーメンかい」

喉に黒い固りが閊えた。

「矢張りだ。野郎、矢張りだ。こんな事をして、こんな……」

白く乾いた唇がカサカサ慄えた。老人の眼は火になって輝いた。指が虚空を掴んだ。

「狐だ! 狐だ! 狐だ!」

お松の足が襖を蹴開けた。

小野牧師は、寝巻きのまま蒲団の上にしょんぼり座っていた。

「牧師なんて狐だ。狸だ。みんないい加減の代物だ。神様なんて化物だ。大騙だ。私ア十三年間この娘の上に奇蹟の現われることを祈っていたんだ。