Classiques japonais avec furigana
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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
Lisez 日本婦道記 (にほんふどうき) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 15 091 caractères · 30 écrans
でございますが」
そこまで云いかけてお石は立ち、部屋の奥から紫色の袱紗に包んだ物を持って来た、
「これを覚えていらっしゃいますか」
そう云いながら披いたのを見ると、いつかせがまれて貸与えた翡翠の文鎮であった。お石は平之丞の熱い眸子を頬笑みながら受けた、
「お好き申さない代りに、あなたさまの大事にしていらっしゃる品を、生涯の守りに頂いて置きたかったのです」
「では……」
と平之丞は乾いたような声で云った。
「お石はずいぶん辛かったのだな」
「はい、ずいぶん苦しゅうございました」
なんというひとすじな心だろう、愛する者の将来に万一のことがあってはならぬ、その惧れひとつでお石は自分の幸福を捨てた、今は年も長けたし情熱もむかしのようではない、すなおに苦しゅうございましたと云うことができる、然しまだ世の波かぜにも触れず、ひたむきな愛情が生きのいのちであった頃、どのようなおもいで自分の幸福を諦めたことだろう。――自分では気づかないが、男はつねにこういう女性の心に支えられているのだ。平之丞は低頭するようなおもいで心のうちにそう呟いた。
「どうやら昏れてしまいました」
やがてお石は窓のほうへふり返った、