Classiques japonais avec furigana
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えどのかじゅつ
江戸の火術
野村 胡堂
Lisez 江戸の火術 (えどのかじゅつ) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 17 929 caractères · 36 écrans
新妻の名はお静
次第に押しのめされて、今は根も力も尽き果てた繁代、フト見ると、
「あッ」
兄喜三郎の刃はもう、大筒の尾栓に縛られたままの井上半十郎の喉へ、――
繁代は物を考える隙もありませんでした。もがく手に触ったのは、兄が今しがた捨てたばかりの火縄、輪になって、ポッポと燻るのを、見当も定めずサッと投りました。
何も彼も、天の摂理と見るべきでしょう。この投げた火縄が、局面をすっかり変えてしまったのです。
新妻の名はお静
――ガン――
と天地も崩るる音、焔は目の前にカッと大気を劈ざいて、巨大な綿を束ねたような白い煙が大地から湧き上ると同時に、石も、木も、人も、土くれも、一ぺんに八方へ飛び散ります。
繁代の投った火縄が、たまたま稲富流の強烈な焔硝を充たした焔硝箱の中に落ちたのでした。
繁代が人心地付いたのは、それからほんの暫らく経ってから、見ると、小屋も大筒も吹飛されて、山の形が変ったかと思うほどの有様、後は反って静寂になって、何時の間にやら、四方には虫の声も蘇生って居ります。
「あッ」
見ると、兄の喜三郎は、吹き飛された大きな石に打たれ、一と握りの肉塊となってこと切れている有様、繁代は暫らく呆然として居りましたが、気が付いて、大筒と一緒に、砲架から転げ落ちて、草叢の中に横たわっている井上半十郎を起して見ました。