Classiques japonais avec furigana
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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Lisez 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 52 046 caractères · 104 écrans
家にいても気がふさぐというので銭湯へ行ったその帰り道、横町の曲角で不意と出会ったのは、芸者の時分お千代に取っては慶三と同等に極く大事なお客の中の一人であった葉山という若い男である。世間にも一寸聞えた実業家の若旦那で、だらしなく金を使う箒さんで通ったお客である。
「千代香じゃないか、丸髷に結ってやがるな。うまくやったなア。」と締のない、大きな声でわざといけ粗雑な調子で物を云うのがこの男の癖である。お千代は黙って引いてしまった弱身もあるので、「あら葉山さん」と云ったなり二の句がつげずにただ立止っていると、葉山はじろじろ女の様子を見ながら、
「千代ちゃん、お前どこにいるんだい。」
「ついこの先の横町です。」
「連れてってお呉れ、満更他人でもないだろう。皆な聞いて知ってるぞ。親指が留守なら構わないじゃないか。……いけないのか、いけなきゃア鳥渡その辺の待合へ行こうよ。話があるんだ。」
お千代は単刀直入にこう云われては以前の関係からそう情なくも振切れないので、その日は慶三の来ぬのを幸い妾宅へ案内した。葉山は少し話をして帰りがけに五円札をお祝いにと置いて行った。これがそもそもの始まりで葉山は二、三日たつと、ふいとまたやって来て、格子戸の外から、夏の事とて明け放した下座敷を窺きながら、お千代が窓のそばへ蹲踞んで足の爪を切っている