Classiques japonais avec furigana
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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Lisez 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) de 永井 荷風 (ながいかふう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 52 046 caractères · 104 écrans
怠倦
この春朝日新聞の紙上に「冷笑」と云う小説を書いていた時に、自分はその日の朝机に向って書き綴った自分の文章が、毎日毎日機械的に翌日の新聞紙に載っているものを見て、何となく自分もいよいよ小説家になった。作者になった。筆を家業にする専門家になったような心持がして何とも知れず一種の不安と不快とを覚えた。
今度は意外にも学校の教室に立って文学と云うものを講義せねばならなくなった。人生、芸術、美、空想、感動、幻影なぞと云う言語を無暗と口にするのが義務でもあり、職業でもあるような心持がしてまたまた新しい不安と不快とを覚える。
昨日まで市に隠れて人に知られず、ただ恣なる空想の世界に放浪していた当時には、人生と云い芸術と云い美と云う言語は如何に尊く懐しいものであったろう。何故ならばそれ等の言語はわが刹那刹那の感激によって我が目の前に閃き過る幻の影を捕えて、少くとも自分の生きている間は保存せらるべき記録を紙上に移して呉れる唯一の媒介者であったからだ。
どうして自分は彼の時にはああ云う夢を見たか。どうしてその時にはそれを臆面もなく歌ったか。いかにするとも返っては来ぬ「時間」