Classiques japonais avec furigana
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きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
Lisez 菊千代抄 (きくちよしょう) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 36 178 caractères · 72 écrans
――その顔、その手で……。
菊千代は歯をくいしばりながら、刀をふりかざしてまっすぐにいった。するとふいに、横からつぶてのように走って来て、「お待ち下さい、御短慮でございます」
こう叫びながら立ち塞がる者があった。菊千代は逆上したように刀を振り、「止めるな、斬らねばならぬ、どけ」
「お待ち下さい、どうぞ気をお鎮め下さい」
「どかぬと斬るぞ」
菊千代は刀をふりあげた。すると立ち塞がった男は両手を着物の衿にかけ、それをぐっと左右にひらいて、自分の裸の胸を見せた。
「お斬りあそばせ、いざ」
そしてすぐに衿を合わせた。
「――その胸の、その胸の……」
菊千代はくらくらとめまいにおそわれた。
「――おまえは誰だ、おまえは」
その一瞬に過去のあらゆる記憶が、内発する幻像のように頭のなかで明滅した。だがそれがなんの意味であるかわからぬうちに、からだを渦に巻かれるような感じで昏倒した。
寝間へ運ばれるとすぐ気がついたようだ。けれども激しい神経発作を起こし、輾転ところげまわったり、着ている物をひき裂いたり、叫んだり泣き喚いたりしたという。
「あの女を生かしてはおけない、葦屋を斬れ、すぐ庭へひき出して斬ってしまえ」