Classiques japonais avec furigana
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きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
Lisez 菊千代抄 (きくちよしょう) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 36 178 caractères · 72 écrans
九
おそらくはこれからも愛されることはないだろう。自分では意識せずにそう思い、そして記憶の底に隠れていた母の言葉を、われ知らず呟いたに違いない。
――そうだ、可哀そうな菊千代。
その年の冬を越すあいだ、菊千代は欝陶しいような、元気のない日々を送った。
九
中山へ来てからの静かなおちついた生活が終った。年が明けて春の近づくころから、菊千代はまた気持が苛々し、癇が昂ぶって、例月のさわりの前後には、再びあの忌わしい夢を見るようになった。なんの理由もなく性急に名代名主を呼んで、「竹次への援助はやめる、もう構うな」などと怒り声で云ったり、また自分ひとりでいきなり楯岡三左衛門の小屋へゆき、「こんな処では不自由であろう、屋敷へ来て養生するがよい、申しつけて置くから」
そんなことを云いだしたりした。
思いつくことが衝動的で、しかもそれが抑制できない。なんでも即座に思うようにやってしまう。独騎で半日も遠乗りをして、そこがもう隣藩であることを知らずに咎められたり、無法に駆けさせて乗馬の脚を挫かせたりした。薙刀の稽古を始めて、弥市のほかに相手がなく、弥市はまた相手には不足なので、庭樹の枝を叩き折ってまわり、腕の筋をちがえるようなこともあった。