Classiques japonais avec furigana
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きくづきよ
菊月夜
山本 周五郎
Lisez 菊月夜 (きくづきよ) de 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 16 129 caractères · 32 écrans
そして「この者に内密の訊問があるから」といって役人を遠ざけ、手燭を取って格子の間近へ寄った。狂人は房の片隅に身を竦め、おどろな髪の蔭から光る眼でこちらを瞶めている。
「……おれは、大目附疋田信三郎と申す者だ」彼は狂人に向ってそう呼びかけた、「今日そのほうの唄った俗歌に、夜こそ訪い来ねという文句があった、なにか申すことでもあれば云うがよい、ここにはおれ一人だぞ」
「…………」狂人はなにか物音でも聞きすますように、しばらくじっと息をひそめていたが、やがてもぞもぞと身を起し、格子のそばへと這い寄って来た。そして膏と垢で汚れた茫髪をかきわけ、小さな棒状に巻いた物をとり出して、黙って信三郎に渡した。披いてみると、『斬奸覚書』という文字がいきなり眼へとびこんできた。そして次に、――高力忠左衛門討果し申候こと私怨にこれ無く……という文字がみえたので、信三郎はあとは読まずに巻き戻してふところへ納った。狂人はじっとこちらを見上げている。
「……そのほうこの書状を何者から預かった」
「……ご本人から預かりました」
そう答える声を聞いて、信三郎はびっくりした。今までの嗄がれ声ではない、かすれてはいるが正しく女だ、女の声なのである、彼は思わず身を跼めた。