Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
揉みにじられた上、よろよろと、のめってきた。
「あぶねえ!」
思わず支えて、多市が手を出すと、ポンと日傘が来た。女の体は風鳥のように、胸を掠ッて後ろへ抜ける。
「ア、もし」
手に残された日傘をつかんで、多市が呼んだ。
女はもう五、六間。小走りに過ぎていたが、ふりかえって、ニッコリ笑った。――そのニッコリがまたばかに絢爛、菊之丞の舞台顔を明りで見たよう。
「もし、これを、傘を――」
「ア」女は遠くでうなずいた。
「いいんですよ」
「あれ……」
味な気もしたがまだ解せない。
「よかアねえ、女持ちだ、貰ったところで始末に困ら」と、身を動かした時初めて気がついた。
自分のふところから、晒木綿がダラリと二本はみだしている。
二重に巻いた腹巻を、刃味も凄くタテに裂いた剃刀の切れ口。
「あ! 畜生ッ」
逆づかみにした日傘をふって、眼色をかえた待乳の多市は、まっしぐらに駈けだした。
「スリだ、スリだスリだ!」
「ちぼ! ちぼッ!」
人の声だか自分の声だか分らない。西門唐門のまわり、七堂伽藍を狂気のように走り巡った。と、出会い頭に、猫門の前で、バッタリぶつかった男が、
「おい、待ちな」