Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
その万吉がこうして頼む。どうか、お前は得心して、今の望みを諦めてくれないか」
万吉の言外にも、まだいろいろな事情があろう。まして、将軍家の内密なお墨付までうけたといえば、弦之丞が、万難を排して、阿波へ急いだのも無理ではない。
なおかつ、万吉の衷情も、いっそう同情にたえないことだ。
ただ切ないのはお綱の胸――。
事情をわけて頼まれてみれば、なおさら辛い立場であった。恋の幻滅、甦生の失望。お綱の胸を割ってみれば、今は悪行の享楽もなく、帰る望みを持つ家庭もない。ただかすかに、心淋しくも、はかない思慕と、生れ代ろうとする本善の性だけがある。
「分りました……」お綱はやっとこう洩らして、
「けれど、ねえ、万吉さん、今の私の心にもなってみておくれ。どうしても、私は、あの弦之丞様にすがっていなくっては、生きておられない身なんだよ……」
「そりゃ俺も充分に承知している。承知しながら何もかも、諦めてくれと頼むのは、ちょうど、お前に尼になれという難題を吹ッかけるようなものだが」
「いいえ、尼になれる私なら、いッそ、そうなったほうがましだけれど、とても私の性質では、尼寺へなぞは住めないし、といって、弦之丞様やお前さんの側を離れて、このまま江戸に揉まれていれば、いつかまたよりが戻って、癖の悪い指技の出来心が起こらないとも限らない……。