Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
ちょうど、内陣の薄い明りが、横の扉から流れているので、ほどこうとする、麻糸の結び目もどうやら分る。
その糸を解き終えると、お綱はフイと、
「万吉さん」
考えるような眸をあげて、
「なんだか私は、これを開いてみるのが、少し怖いような気がしてきたよ」
「何か思い当ったかい?」
「こんなシーンとした晩に、この観音様のお堂に立ったせいか、初めてフイと思いうかんだことがある……。それはもう、十何年か前のことだけれど」
「と、すると、お前が八ツか九ツごろ?」
「なんでも、うすら覚えに考えると、あの弁天山や仁王門の桜が、チラチラと、散りぬいている晩でしたっけ。――その小さな時分の私が、お母さんの手に引かれて、この観音堂へ来たのですよ、それもたしかに夜半のよう……」
刀の包みを解きかけて、お綱はこう語りだした。なつかしい、その頃の夢をおうように。
「万吉さんにも、一度話したことがあるけれど、お母さんはお才といって、仲之町では売れた芸妓、たいそうきれいな女でした――。そのお母さんに手を引かれて、なんの気もなくこのお堂へ連れられてきてみると、そこに、ジッと待っていたお武家様がありました。