Classiques japonais avec furigana
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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Lisez 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 262 100 caractères · 523 écrans
といってこのまま弦之丞様に、逢わずにはなおいられない」
と悶えているかと思うと、見えぬ糸で魂を操られている人形のように、
「ええ、もうじれッたい、どうなとおなり……」ペタリと鏡台の前へ坐った。そして、繻子鬢のくずれを手早く梳き返し、美艶香や松金油を溶きはじめたのは、もう恋のほかなにものもなく、一途に大津とやらへ行って、法月弦之丞に会うつもりであろう。
それにしても、美男の魅力は美女の蠱惑にも優るものか、あの夜川長の裏庭で、月下に渦まいた一つの争波から、虚無僧姿の若人へ、剣以外に、お綱お米という二つの女の魂まで絡みついてこようとは、弦之丞その人すらも知らないこと――。
「お米や……」そこへ温か味のある声がした。お米の母で、店から何まで切り廻している老母である。小さな器へ、何か赤い液をたたえた物を持ってそろそろと入ってきた。
「お前、また今日も服むのをお忘れだね」
「…………」答えもしないで臙脂をさしている、鏡の中のお米の目、やや狂恋の相がある。
「服まなくってはいけませんよ。え、お米や」
「今日は服みたくないんだもの」
化粧のできた鏡の吾をみつめたまま、お米は見向きもしなかった。