Classiques japonais avec furigana
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みなかみきこう
みなかみ紀行
若山 牧水
Lisez みなかみ紀行 (みなかみきこう) de 若山 牧水 (わかやまぼくすい) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 102 087 caractères · 203 écrans
一時、その客足の断えた時があった。其処へ一人の男が通りかかった。二十代か三十かそれとも四十にかかっているか、一向に年齢の解らぬ背の低い丸坊主であった。帯をば尻の頭にしめて、だらりと両手をふところに入れて居る。一目見てそれと解る白痴である。門にもたれていた鰹節売の六十爺はそれを見ると、矢庭に声をかけた。
「××!」
と名を呼んでおいて、
「あれにナ、石を投げて見ろよ、あたるといい音がするぜ!」
見ると宿屋の石の門の真向いには半鐘柱が立っていた。男はニヤリと笑ったが、やがてその猪首を傾げて、眩しそうに柱の上に吊ってある半鐘を見上げた。そしてまた鰹節売の胡麻塩の頭を見て、ニヤリと笑った。上の前歯が三四本ずらりと欠けているのだ。それが一層この男を白痴らしくも、また可愛らしくも見せて居る。
「投げて見ろよ、見ろ、ソラ!」
云いながら爺は足許の小石を拾いあげて半鐘の方へ向けて投げあげた。うす赤い歯茎をあらわに見せて相変らず同様な笑いを続けていた男は、度々爺の勧むるままに、やがて自分も一つの小石を取りあげた。そして徐ろに首を動かして高い柱の上を見上げた。
直ぐ投げるかと見ていると、彼は投げなかった。