Classiques japonais avec furigana
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キャラコさん
キャラコさん
久生 十蘭
Lisez キャラコさん de 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 32 972 caractères · 66 écrans
一
「兄さん、あたしは、困ったことになりはしないかと思うんですがね。ピエールは、きのうも、あのお嬢さんと二人っきりで話していましたよ」
海風でしめった甲板の上を大股で歩きながら、エステル夫人が、男のようなしっかりした声で、こういう。薄い靄のなかで、朝日がのぼりかけようとしている。
「あたしも、あのお嬢さんのいいところは認めます。でも、あなたのこういうやり方には、あまり賛成できませんね。……これじゃ、まるで、騒ぎの起きるのを待ってるようなもんだ」
アマンドさんが、厚い首巻きのおくで、はっきりしない声をだす。
「それは、いったい、どういう意味だね」
船尾までゆきつく。
そこで、くるりと廻れ右をして、白髪頭を二つ並べながら、また戻って来る。
「ピエールが、あのお嬢さんを好きになったらどうします」
「ありそうなこったね。……白状するが、わしもあのお嬢さんがだいすきだ」
「そんなことは、聞かなくってもわかっています。あなたの日本心酔は並大抵じゃないんだから。……しかし、それは、あなたの趣味だけのことでしょう。ともかく、そんなことのために、不幸な人間をひとりこしらえあげることは、あたしは反対です」