Classiques japonais avec furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lisez ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) de 梅崎 春生 (うめざきはるお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 411 caractères · 263 écrans
「蜆ですよう」
朝の光が射しそめる頃から、彼の世界は黄色に展けてくるのであった。彼の視界にあるどういう物体も、その色のまま黄色に見えた。黄疸らしいと判ってから、その黄色の感じも幾分変ってきて、視界をおおう黄色の膜は、眼の外にあるのではなく、網膜に貼りついていることが、神経的に感じられた。彼はときどき身体中に滲みうごく胆汁のことを思った。彼の想像のなかの胆汁は、膿がある種の軟膏のように、黄色くどろどろしていた。肝臓のちかくにある小さな胆嚢から、そんな液汁が四方に流れ出て、血管や組織に滲んでゆく幻覚じみた感じは、彼の身体のだるい状態とぼんやり重なっていた。身体は相変らず、だるく鈍かった。ひとりでいると、そのまますべてが黄色い世界のなかに静止していた。外を出て歩いたり、白木と花札をやったりするのも、彼が欲するからではなく、何かに強いられた、物憂い生の習慣にすぎないことを彼はかんじた。
(病覚があるとしても――)汁の中から蜆をひとつひとつ拾いながら、彼は時々そう考えた。(それだけではどうにもならない)
ある夕方、このように身体や気持が鈍麻した状態で、なお心の表面にひりひりと触れてくるような、ひとつの言葉を聞いた。