Classiques japonais avec furigana
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ボロやのしゅんじゅう
ボロ家の春秋
梅崎 春生
Lisez ボロ家の春秋 (ボロやのしゅんじゅう) de 梅崎 春生 (うめざきはるお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 129 411 caractères · 263 écrans
それで運転手は頭を下げた格好になった。
「さあ。帰ろう」
頭から手を離し、常務は言った。運転手は頭を元に戻して、無表情に立ち上った。
「いや。平に、御見送りのほどは、平に」
尻ごみをするように、常務は後しざりして、部屋を出た。運転手もそれに続いた。彼は二人を追って、玄関まで出た。二人は身を屈めて靴を穿いている。背後から見る運転手のその首筋は浅黒く、見たことがあるような、またないような形であった。彼はしばらく確める眼付きでそれを見おろしていた。
「やはりあの時の運転手かな。皮膚に毛穴のようなものが、たくさんある」
画室に戻って来て、彼は考えた。常務はいろいろしゃべったが、運転手は口ひとつきかなかったことに、彼は今気付いていた。声さえ聞けば、その抑揚や調子などで、当人か換え玉か判る筈であった。でも、換え玉であったとしても、それが何だろう。当人を連れて来て釈明せよと、こちらは請求した覚えは絶対にない。向うが勝手にやって来ただけの話である。常務もこれがその当人であるとは、明言しなかった。すべてがあいまいなまま収まっている。菓子折ひとつだけが歴然とした形で残っている。