Classiques japonais avec furigana
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ひとつのめばえ
一つの芽生
宮本 百合子
Lisez 一つの芽生 (ひとつのめばえ) de 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 14 627 caractères · 29 écrans
忘却も憎むことはできない。
心は非常な痛み、苦しみをもって重く深く沈湎(ちんめん)して行く。けれどもそれは、目のとどくかぎりの奥まで澄み透っているらしい心持がする。
そして明かに力の感じとなって、死のうとする者、死なれようとする者に対しての愛情が湧然(ゆうぜん)と胸に充ち渡るのを感じたとき、自分は死の肯定によって一層強められた生の光栄のために、魂が燃え上るのを感じた。
四
十六、十七の両日の間に、すべての状態は漸次(ぜんじ)死に近づいて来たらしい。
熱の下降と脈搏の著しい増加を来して、十七日の夕刻には発病後始めて、百の脈搏と七度七分の温度とが記入された。そして、すべての精神作用は、全く休止してしまったのである。彼の骨だらけな手を撫でながら、ポロポロ涙をこぼしている母の悲痛な顔を見、涙を拭き拭き気をとりなおそうとするらしく頭を振る父の「いい顔」を見ると、私はほんとうに何とも云われない心持がした。
親達の生きている間は、死ねないと思わずにはいられなかった。
もうかなりの年になっている両親にとって、十五年の間限りない心遣いと、限りない望をかけて育てて来た息子を今失うことは、全くどのくらいの打撃であろう。