Classiques japonais avec furigana
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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
Lisez 夜明け前 (よあけまえ) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 105 172 caractères · 206 écrans
第八章
第八章
一
母刀自の枕屏風に
いやしきもたかきもなべて夢の世をうら安くこそ過ぐべかりけれ
花紅葉あはれと見つつはるあきを心のどけくたちかさねませ
おやのよもわがよも老をさそへども待たるるものは春にぞありける
新しく造った小屏風がある。娘お粂がいる。長男の宗太がいる。継母おまんは屏風の出来をほめながら、半蔵の書いたものにながめ入っている。そこいらには、いたずらざかりな三男の森夫までが物めずらしそうにのぞきに来ている。
そこは馬籠の半蔵の家だ。ただの住宅としてはもはや彼の家も広過ぎて、いたずらに修繕にのみ手がかかるところから、旧い屋敷の一部は妻籠本陣同様取り崩して桑畠にしたが、その際にも亡き父吉左衛門の隠居所だけはそっくり残して置いてある。おまんはその裏二階から桑畠のわきの細道を歩いて、食事のたびごとに母屋の方へと通って来ている。その年、明治六年の春はおまんもすでに六十五歳の老婦人であるが、吉左衛門を見送ってからは髪も切って、さびしい日を隠居所に送っているので、この継母を慰めるために半蔵は自作の歌を紙に書きつけ、それを自意匠の屏風に造らせたのであった。