Classiques japonais avec furigana
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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
Lisez 夜明け前 (よあけまえ) de 島崎 藤村 (しまざきとうそん) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 105 172 caractères · 206 écrans
無言の悲しみを制えるかのように。
その晩はもはや宵から月のあるころではなかった。店座敷の障子にあの松の影の映って見えたころは、毎晩のようにお粂もよく裏庭の方へ歩きに出て、月の光のさし入った木の下なぞをあちこちあちこちとさまよった。それは四、五日前のことでお民も別に気にもとめずにいた。その晩のように月の上るのもおそいころになって、また娘が勝手口の木戸から屋外へ歩きに出るのを見ると、お民は嫁入り前のからだに風でも引かせてはとの心配から、土間にある庭下駄もそこそこに娘を呼び戻しに出た。底青く光る夜の空よりほかにお民の目に映るものもない。勝手の流しもとの外あたりでは、しきりに虫がなく。
「お粂。」
その母親の呼び声を聞きつけて、娘は暗い土蔵の前の柿の木の下あたりから引き返して来た。
その翌日も青山の家のものは事のない一日を送った。夕飯後のことであった。下男の佐吉は裏の木小屋に忘れ物をしたと言って、それを取りに囲炉裏ばたを離れたぎり容易に帰って来ない。そのうちに引き返して来て、彼が閉めて置いたはずの土蔵の戸が閉まっていないことを半蔵にもお民にも告げた。その時は裏の隠居所から食事に通うおまんもまだ囲炉裏ばたに話し込んでいた。