Classiques japonais avec furigana
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きだんクラブ〔せんごばん〕
奇談クラブ〔戦後版〕
野村 胡堂
Lisez 奇談クラブ〔戦後版〕 (きだんクラブ〔せんごばん〕) de 野村 胡堂 (のむらこどう) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 10 681 caractères · 22 écrans
二
自分の弾みのついた身体を受止めて、近々と寄せた女の顔、眉毛、唇――焔の色に燃えて、カッと赤くはなって居りましたが、それこそは、伊予守忠弘が日頃見慣れている、椎茸髱に厚化粧で、笹紅を含んだ御守殿風の女とは、およそ対蹠的な存在でした。野生的で情熱的で脂っ気も白粉っ気もない女の魅力というものを、十九歳の殿様は初めて身近に感じたのです。
年の頃は二十歳そこそこ、色は少し浅黒い方、にっこりすると美しい歯並みが見えて、少しも鉄醤臭くないのが、まず忠弘には嬉しい風俗でした。肩の当った木綿物らしい、ひどく粗末な袷も、黒っぽい帯も、忠弘がかつて見たこともないほどお粗末なものですが、そのお粗末な装束に処女の体臭と、それから名香をたきしめたとしか思えぬ幽雅な匂いが漂って、十九歳の殿様をうっとりさせずにはおきません。
二
「兄を待って居りましたが、この火事に途を塞がれて何処かへ廻ったことと存じます、――いえ、いえ、火に巻かれて間違いを起すような人ではございません、――兎も角も大川へ漕ぎ出して様子を見た上、深川の叔母のところへでも参りましょう、――それとも御武家様、どこかへお送りいたしましょうか」