Classiques japonais avec furigana
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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
Lisez 小出楢重随筆集 (ならしげざっぴつ) de 小出 楢重 (こいでならしげ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 334 351 caractères · 657 écrans
と飲んでしまったものだ。まったくそんなことは、かつてしたことはなかったが、するとやがて猫いらずは私の頭と顔と血脈とを真赤に染め出し、私の心臓を急行列車のピストンの如く急がせてしまったのであるが、わずか一杯のビールで苦しむのはさも男らしくないようだから、つとめて平静な顔をして雲を眺めていたところ、その急速なピストンが逆にすこぶる緩漫になったと思うと、急に五月の天地が地獄の暗黒と変じて来た。私はこれがわがなつかしき地球の見おさめかと感じた。
友人は私の足を持って私を逆さにぶら下げたり仁丹を口へ押し込んだりした。二、三分の間私は草葉のかげへ横たわってから目が醒めた。まさかビールがこんなことになるとは友人も私も思いがけなかったことだった。その友人の一人はこの間死んだ帝展の遠山五郎君だが、私達が十幾年ぶりでパリで出会った時、彼もまたそのことを記憶していて思い出話をしたことである。そのかなり頑健そうであった彼がすこぶるたよりない私よりさきへ死んで行くとは思えなかった。
私は左様に酒がのめないのだが、しかし、酒がのめたらどれ位この世の幸福が多いことかと思い羨んでいる。