Classiques japonais avec furigana
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しょうせつ えんちょう
小説 圓朝
正岡 容
Lisez 小説 圓朝 (しょうせつ えんちょう) de 正岡 容 (まさおかいるる) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 163 270 caractères · 325 écrans
あわててその手を袂の中へ隠してしまったが、
「辛い」
しみじみ心から叫ばないわけにはゆかなかった。
でも、辛いとて、今更、後へはもう退けなかった、血みどろになって前進するより他にはこの自分は……。
「……」
心配そうに母親の自分の傍から去っていったあと小圓太は、思わずその腫れた手の甲を瞼へ持っていった。腫れへ、ズキズキと涙が染みた。
「あしたの朝、暗いうちに稽古においで」
ある日、師匠がこういいだした。
湯島を夜中に起きだして、はるばる四谷まで。暮春とはいい、まだ夜夜中は寒かった。暁方、師匠のところへ辿り着くころには一段とだった。向こうへ着くとまだ師匠夫婦は寝ていた。おしのどんとてようやく床をでたばかりのところだった。
「小圓太さん、あのお師匠さんがお前さんがみえたらね、表のお庭の方を掃除してておくんなさいって」
寝ぼけ眼でおしのどんはいった。
「ヘイ承知……」
凍む手に竹箒を。
すぐ表庭の掃除にかかった。
春曙の薄桃いろの薄紫の濃緑の水浅黄の橙いろのいろいろさまざまの彩雲が、美しく頭上の空いっぱいに棚引き、今をさかりの花蘇枋や粉米桜や連翹や金雀枝や辛夷や白木蓮の枝々を透してキラキラ朝日がかがやきそめてきていた。