Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

ja-reading.com

Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

ようねんじだい

幼年時代・晩夏

堀 辰雄

Lisez 幼年時代・晩夏 (ようねんじだい) de 堀 辰雄 (ほりたつお) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 85 965 caractères · 169 écrans

Aozora Bunko

七

私の生父は、裁判所などに出ていても、謹厳一方の人ではなかったらしく、三味線の音色を何よりも好んでいたそうである。その血すじをひいた生父のことはもうすっかり忘れてしまって、私のことをかわいがっていてくれる新しい父や母やそのほかの人々の間で、何も知らず、ただ無心に、おばさんの三味線に合わせながら「猫じゃ、猫じゃ」を踊っていた、小さな道化ものの自分の姿が、いま思いかえしてみると、自分のことながらなかなかにあわれ深く思えてならない。……

七

雪の下のたいそう美しく咲いていた、田端の、おじさんとおばさんとの家で、私が六月の日の傾くのも知らずに聞いた自分の生い立ちや私の母の話を、以上、そのままにざあっと書いてみた。

いまの私には、父の死の前後から中絶しがちになっていた小説「幼年時代」を再び取り上げて、書きつづける気もちにはどうしてもなれないので、それはそれで打ち切り、こんど改めておばさんたちに聞いた話は、此処にはほんの拾遺のようなものとして附け加えておくに止めた。

私はいまこの稿を終えようとするとき、その田端へ往った数日後、私はまたふいと何かに誘われるような気もちで、東京に出て、ひとりで請地の円通寺を訪れた、六月のうすら曇った日のことを思い出す。