Lecture japonaise

Classiques japonais avec furigana

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Lisez des classiques japonais en ligne avec furigana. Filtrez par niveau JLPT, touchez un mot pour le sens et traduisez une phrase.

わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lisez 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.

N2 · avancé · kanji et kana modernes · 193 050 caractères · 383 écrans

Aozora Bunko

少年期の幼い国家観念しかなかったせいでもあろうが、日本の浮沈よりも、毎日毎日のわが家の浮沈と、貧乏との戦争の方が、ぼくの心を占めていたのも是非なかった。「どうしたら食べてゆけるか」を母と一しょに闘っている気持ちだったから、日本の憂いと共に憂い、日本の歓びと共に歓ぶなんて、大きな呼吸を持つひまもなかったのである。そうとでも思惟してみるほか、その面の記憶の稀薄をぼくに糊塗するすべがない。

資本を貸してくれた小島の小母さんには間が悪いが、ぼくは行商を廃めたくなった。厭に成りだすと歩くのがなお辛かった。行く先々では、優しい主婦もいたり、励ましてくれる人もあったりするが、冷めたい声で追ッ払われるのが当然な世間であった。それも大人達にあしらわれるのは、まだ我慢もできたが、同年輩ぐらいな子供にからかわれたり、行きずりの中学生の群れに何か嘲われた気がすると、その場で行商の荷を川へでも捨ててしまいたくなった。

けれど父はあの儘、病床についたきりだし、母の苦労はちっとも減っていなかった。のみならず、或る晩、家へ帰ってみると、三ツぐらいな見たこともないよその女の児が、ぴいぴい泣きながら母に抱かれてサジでお雑炊か何かを食べさせられていた。